映画レビュー「き」


<疵(きず)>
 昔、戦後の渋谷に君臨した安藤組に花形敬というヤクザがいた。武器を一切使わず、己の腕っぷしだけを頼りに喧嘩最強を誇ったその男は、力道山も恐れたとも言われている。漫画「グラップラー刃牙」に登場する喧嘩師・花山薫は彼がモデルになっています。
その実在した男の生涯を映画化したもの。 文春文庫から本田靖春の「疵(きず) 花形敬とその時代」という作品が出ています。この本は花形と同じ学校にいた作者の身内の紹介文など書かれており、その辺はどうでもイイのだが、時代検証的な価値は大いにあります。日本にもこうした暗い時代があったのだと認識しておくべきだろう…。

 世に「ヤクザ映画」に憧れる男は多いと思いますが、やっぱりこういう作品を見ちゃうと「ヤクザになんて、なっちゃあいけないなぁ…」と思わされる。最後はロクな末路を辿らないからね。

ふーっ、強く生きた男の一生は儚いね…。



<キッズ・リターン>
 北野武の監督作品。思春期というか、多感なこの時期にやり場のない葛藤をどこにぶつけたら良いか分からない落ちこぼれの青年達が、ボクシングを通じて成長…とはいかず、そこからまた人生に挫折してヤクザになったり、漫才師になったり、しがないタクシー運転手になったり、人生の荒波にのまれていく。そうこうしているうちに無常にも月日は流れ、俺たち一体どうなっちまうんだろう…というリアルな作品。
 でも最後の一言がすばらしい。

 「俺達、もう終わっちゃったのかな…」
 「バカ、まだ始まってもいねーよ!」

 映画のタイトルと本編がマッチしているし、これ見よがしな作品でないところが良い。
ちなみに、青春とは何だろうか。いつの年頃までをそう呼ぶのだろうか?そのヒントは立花隆さんの「青春漂流」(講談社文庫)という本に見つかるかも知れない。今はソムリエやナイフ職人として有名になっている人もいるが、不器用な生き方しか出来なかった落ちこぼれのたちを真摯にインタビューした本だ。(人生のなるべく早いうちに一読してもらいたい良書です。)

 追記:社会人になって、「人生は、退屈だ」とボードレールが言ったけれど、つまり社会人というのは詩人が多いわけだな。と思っていた矢先の出来事です。
高卒で入社してきた同期から「あのさ…。オレ、まだ18ですよ…?人生、終わってますよね…」という呟きに対し、私の一言。

 「バカ、まだ始まってもいねーよ!」



<キルビル>
 タランティーノ監督のミーハーさを発揮した完全なB級作品。ここまで徹底的にやってくれると苦笑しながら見てしまう。ストーリーは恋人ビルに裏切られた女の復讐劇である。
アクションシーンはド派手。特撮っぽい大立ち回りはともかく、序盤の女二人が家の中で包丁を振り回して殺しあうシーンがリアルで凄い。少しでも手元が狂ったら怪我するじゃん!とハラハラしながら観てしまった。
心理描写もドロドロしたものが伝わってくる。その辺はやはりラテン系の血を引く監督か。
エンデイング曲は演歌の「恨み節」、唄っているのは宇田多ヒカルのお母さまです…。



<キルビル2>
 例のB級大作映画も突如(?)続編が出ることになり、ちと辟易していたが友人が貸してくれたのでとりあえず観たら、なかなか良く出来ていた。特に宿敵・ビルの居場所を探して立ち寄った中南米のマフィアのアジトを写すシーンが、とても美しいカメラワークで、ただただ感心した。唇を縦にに切られた女など、その残忍性の中からタランティーノ監督の狂気の美しさを感じた。でも、はだしで目玉をぐにゅ〜…と踏み潰すシーンはとてもB級イタリアンホラーらしかった。
最後は仙人に教わった「秘伝の中国拳法」でビルの秘孔を5連撃して殺すのだが、そこで身体が爆発すれば、B級クソ映画としては(最後まで疲れるが)パーフェクトだったと思う…。「北斗の拳」みたいで。



<キングコング>
 ここでレビューするのは昭和のカラー版である。
ご存知、巨大ゴリラのモンスター映画である。といっても、巨大ワニや巨大人食いザメ、もしくは巨大タランチュラや、巨大アナコンダとは違い、このゴリラさんの映画には実にヒューマニティーがある。
 南海の野蛮人が住む島には神のごとく崇められている巨大なゴリラがいて、それを見つけた探検隊は命からがら捕獲に成功する。護送船団に連れられてマンハッタンで世間にお披露目という段階になり、ゴリラは島で出会った美女を探すため、鋼鉄の檻を破壊する。
「〜〜社の鋼鉄の檻は保障されています。絶対安全です!」というマイクの解説は虚しく、人々はパニックを起こして逃げ惑う。「保障されているアメリカ製品」…に対するこの表現はとても痛烈な批判・風刺であり、なかなか見事であったナ。
 最後は故郷の島にあった「満月の浮かぶ二つの塔」に似ている世界貿易センタービル、あの9.11テロで破壊された今は無きツインタワー…に登るが、武装ヘリの銃弾に倒れてしまう。
 アメリカにもこうした「人間のエゴ」に対する批判の映画があるんだなと感心した。が、最新のキングコングはただのSFXを駆使しただけの娯楽になっていないか、ちと心配である。

 追記:平成の最新版「キングコング」をチラっと観た。途中だけど最悪、気持ち悪い毒虫とかいっぱい出てくるし、人がムシャムシャと食われていくし、原住民もゾンビみたいに黒いし、変な呪文を唱えているし、フンドシ一丁で美女を誘拐してくるし、なんかオーメンより気持ち悪いし、そういうことで最後までゴリラさんは全然出てこない。やっと街に出てきたら暴れるけど、妙にCGがキレイすぎて本物っぽくてもなんか嫌だ…。とにかく昭和のキングコング以外では「ゴジラ対キングコング」しかダメです。この最新版には「バタリアン」以来のトラウマと嫌悪感があるヨ…。


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