映画レビュー「う」


<ウインド・トーカーズ>
 大戦中に暗号解読を防止するために戦地に配属された通信兵のナホバ族と、将校の交友を描く作品。主人公の友人米兵が日本兵に追い詰められて刀で首を切り落とされるシーンがすごいね。そこには野蛮な暴力に対する美の表現というか、「日本刀」に対する恐怖と憧憬が見られますよ。主人公はロバート・デニーロだったかな。
 日本刀といえば、三島由紀夫のエッセイを読んでいたらイギリスの貴婦人に「これはどう使うのですか?」と聞かれたので、彼が袈裟を切るようなジェスチャーをしたところ、そのお嬢様は血の気が引いて失神しそうになったという話しがあった。

 三島由紀夫は最後に自衛隊・市谷駐屯地で割腹自決をしたが、愛刀「関の孫六」の刃はボロボロに欠け、森田氏による介錯が失敗した際の奥歯が2,3本食い込んでいたという。
 ついでに切腹の話を。 これには2通りあって、通常は介錯を前提に腹を切るものだが、三島氏の場合は完全に腹筋まで切れていたというから、一人で自決する形である。しかし、森田氏が介錯に失敗することを見込んでいたというのは憶測にすぎない。三島邸に招かれたある親しい先生から話を伺う限りでは、三島さんの信念(とそれに伴う言動)は本気そのものであったのだから…と。



<宇宙戦争>
 平成のスピルバーグ版。ある日、突然世界が圧倒的な科学力を武器に持つ異性人との侵略戦争に巻き込まれる。得体の知れない敵をチラつかせて恐怖感を煽られるスピルバーグ的手法も健在だ。怪光線で人間が一瞬でドクロ化(?)して四散する描写は嫌い。注射管で吸われた体液を撒布するのも…。(グロ)
 当然のことながら、病院のイタズラで「噴霧器」は決して使ってはいけないな、と思います(笑)。

 この作品を見たらトライポッドの「ボエェェェェーーーッ」…という不気味な音と触手が脳裏に焼きついて離れないですよ。TVじゃまともにオンエアできなんじゃなかろうか。
 監督は家族愛を描きたかったのだろうが、「あんなバカ息子はさっさとくたばれ」と思っていたのに強引なハッピーエンドは、多くの人が納得いかないはず(笑)。
このメチャクチャ仲の悪い家族は、多分リアルなアメリカの一般家庭の姿なんじゃないかな。

 私は映画を観て育ったけれど、子供心に作り物の世界の「正義」とか「家族愛」を見せられて、正直ずっと欺瞞を感じていた部分があります。(その意見に対して、あの家族愛が素晴らしいと思う人もいますが。)


<海猫>
 伊藤美咲の主演映画。舞台は北海道の漁村。
原作の谷村志穂さんは北海道の出身です。そのため自分のルーツがある舞台にかける渾身の作品となっています。実は私、この映画のヴィジュアル写真集を持っているので、北海道出身の友達にこれを見せてあげました。
 すると、ロケ地はおそらく、おばあちゃんの実家がある場所らしいとのこと。
北海道といえば、トドらーめんが食えるとか、バイクのツーリング天国とか、クマ牧場とか、アイヌ人とか、有珠山が噴火したとか、クッシーが釣れるとか、蟹が名物という、どーにも偏見のまなざしを集めてしまう地でもあるようですが…(苦笑)。
私は普通の鑑賞や特権映像だけではわからない、その地に住む人たちのバックグラウンドを知ることで、作品理解をより深める良いチャンスに恵まれたわけです。

 さて、物語はミムラさんの演じる娘がいきなり婚約破棄されて、ショックで失語症になってしまう場面から始まります。その理由は、すでに亡くなっている彼女の母親にある、というものでした。幼いころすでに世になかった母は、なぜ魔性の女と呼ばれたのか。
自分のルーツを探しに、彼女は祖母や当時の関係者を訪ねて行きます。
 母カオルは、嫁いだ男と、その弟との間の愛憎の悲劇から死んだらしい。
血気早く男らしい夫は、結婚後カオルの扱いがひどくなり、カオルも体を悪くしてしまいます。そんな彼女に恋心を抱くのは、兄とは対照的でおとなしい弟です。
海猫のように蒼く綺麗な眼を持つ彼女。それを本当に愛するのは俺だと。

 北海道には、昔からロシア人とのハーフの人がいる。それは閉鎖的な村社会では、ときに畏怖の対象として見られることがあるらしい。実際にそういう女性を見た友人によれば、それは本当に綺麗なのだよと教えてくれた。

 やがて亭主の弟から、激しい気持ちを打ち明けられるカオル。
「俺は嫌だよ…兄貴があんたを抱いた。」
そして女は、一度だけ男に抱かれるために、再び冬の峠を越えたのであった。

 物語の終盤。波の荒れ狂う断崖を飛び交う、二羽の海猫が映し出される象徴的なシーンがあるのですが、そこで物語のすべてを知る人は、たとえようもない悲劇に打ちのめされるでしょう。私はこの物語は三浦綾子の「塩狩峠」のように、現実性を帯びていると思います。事実を元に再現されたのかどうかは別として、この北海道の寒村の地には、昔から独自の精神的風土があるに違いない。村社会の、人間の帰属意識や、排他性からくる差別や、畏怖や、憧憬というものが複雑に。
 海猫を観終わったあと、ズシーン…と重たい悲壮感が心に残った。
でも不快な気持ちではなく、透明な悲しみだけが波間に残されたような気持ちにひたっているのである。
 映像特権の記者会見でミムラさんが語っていたように、心の中で折に触れて何度も振り返りたい作品である。


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