09.01.18

カブの横型エンジンを語る。

 あるいは「鉄のエンジン」、「鋼の心臓」というタイトルでも良いかもしれない。

 スーパーカブは、驚異的な耐久性があることでよく知られています。
カブの心臓は通称「横型エンジン」と呼ばれ、水平方向にピストン運動します。
私は「ここに耐久性の秘密があるのではないか?」と思っています。
…というのは、第二次大戦で活躍したゼロ戦の心臓は、星型エンジンとよばれる構造なのですが、放射状に配置されたシリンダーの中で、水平位置にあったピストンが最も長持ちしたからです。
これが中島飛行機を前身とする、スバルの水平対向(ボクサー)エンジンのルーツというわけです。
 文献によると、1946年旧陸軍6号無線機発電用小型エンジンを自転車用補助エンジンに改造したのが、ホンダの原点となります。カブが登場するのはそれからですが、50年もの間に何度も細かい設計変更が行われており、カブの横型エンジンはまさに熟成したエンジンといえます。

 もう少しマニアックな話をすると、カブのエンジンはシリンダーがほぼ水平に前傾しているので、ヘッドの位置が低い。結果的にヘッド周りにオイルを循環させるのが楽になります。
オイルをポンプで圧送しなくても、ヘッドが焼きつく可能性はかなり低くなるというわけです。
でも完全な水平だとシリンダーヘッドからオイルの戻りが充分でないので、10°の傾斜がついている。
オイルリターンは重力を利用しているので、強い旋回GがかかるV型エンジンのクルマなどは、オイルがヘッドに逆流してしまうことがあるそうです。ターボの車が煙を吹くのもこのオイルのせい。横型エンジンはシリンダーの向きが前後方向で、かつ低重心に搭載されているので、この影響を受けにくいのかも知れません。

 温度変化が厳しい空冷エンジンですが、デイトナの「温度計オイルフィラーキャップ」を装着した方のwebサイトを見たら、真夏の上り坂でも油温は一定以上は超えない事がわかりました。
具体的な数値は忘れましたが、100℃以上にはならなかったと記憶しています。つまり適正温度をキープし続けたことになります。
(…でも、風防を外すと整流効果がなくなって冷えなくなります。)
 走行風が当たるのもヘッド周りからですね。
これにもいくらかの良い利点があるのではないかと思います。

 C50の'83年以降のエコノパワーエンジンなど、鉄製シリンダーのフィンが短くなっても、なお放熱性を保っています。いずれにしても、シリンダーやスリーブに鋳鉄を使っていることは見逃せない点でしょう。
アルミではなく、鋳鉄の心臓。
 これがスーパーカブの横型エンジンの秘密なのです。

 長期入院をして実感したことですが、エンジンをキックで始動する事も、バッテリー上がりに強く「何度でも甦る」という感覚にさせてくれます。
エンジンに最もダメージを与えるといわれるコールド・スタート時も、キーをOFFの状態で空キックをすることで、あらかじめオイルを循環させるという裏ワザもあります。生物の世界のように、シンプルで原始的な構造ほど環境変化にも強いのだと思います。


 面白いエピーソードは、本田技研の福井威男 社長が昔 先輩からきいたお話。
カブのエンジンを耐久テストにかけたけれど、いくらやっても壊れない。どーやっても壊れない!
絶対壊してやるぞと、地球上ではありえない過酷な条件をどんどん与えてテストを続行したら、樹脂製のオイルフィラーキャップが溶けて、オイルを吹いて焼きついたという。
でも、初期型はこのキャップがアルミ製だから、それなら焼きつかないだろう…と。

 エンジンが完成し尽くしているだけに、吸排気の部品を変更するとバランスさえ崩しかねません。
寒い季節はエンジンのかかりが悪くなりますが、インジェクションに変更された'08モデルはどんなものだろうかと、とても興味があります。
(私はマフラーを交換するつもりだったので、あえてセッティングができるキャブレーターにこだわりましたが…。)





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